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Olive Sea
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Year: 2012
Medium: oil on canvas
Dimensions: 145.5 x 89.4 cm (57 1/4 x 35 1/4 in.)
Acquired from SBI Art Auction, 2025
遠く霞んでいてもなお険峻とわかる荒々しい山並み、大きく蛇行する道、河川にかかる橋。独特の空気遠近法で描かれたこの風景を見れば、ダ・ヴィンチ作の「モナ・リザ」だとわかる。かの名画はそこに描かれた人物を巡る謎に加えて、その背景として描かれた風景に関する研究も今なお続けられている。ダ・ヴィンチがルネサンス期の巨匠として数えられる理由の一つは、空気遠近法やスフマートといった当時の描画技術の発展に大きく貢献したことである。今津が本作で実践しているのは「モナ・リザ」の背景のある程度忠実な模写であるが、それにあたって作家はダ・ヴィンチが用いた空気遠近法をなぞって遠くの景色を青く霞ませている。ある程度、と前置きしたのは肝心の人物が描かれていないことによって、本来の画面になかった見えざる風景の続きが補完されているからだ。画面下方は海上に連なる島嶼のように見える。しかし、その不自然に直線的な列を形成する様子は、まるで画像をコピー&ペーストしたようだ。今津は絵画を制作するにあたって、さまざまな既存のイメージを引用し絵画上で継ぎ接ぎする。本作も例外でないはずで、この不自然な形象的反復は、人物の空隙を埋めるべく有り合わせの岩山をスタンプのように繰り返したように見える。そもそも原作者のダ・ヴィンチもこの非現実的な風景を生み出すために空想あるいは現実の風景の描写を複数組み合わせたとされており、今津の制作態度とも重なる。また、本作ではダ・ヴィンチには見られない描写が今津によって加えられている。雪のような白い粒子が画面全景に散りばめられている点である。日本の浮世絵以前の西洋絵画において雪や雨を粒子として描写した例は知られていない。今津はさまざまなイメージを一枚の絵画の中に融合させ、元のイメージに付随する文化や歴史の文脈を渉猟するのである。