YOSHIAKI NAKAMURA
中村馨章

Noise-12
東京生まれ。2015年東京藝術大学日本画博士(後期)課程、2020年米国メリーランド・インステチュート・カレッジ・オブ・アート大学院を修了。聴覚に障碍を持って生まれたことで、幼少から言語とは音のない文字と、ごく微かな音らしき響き、そして他者の口唇の動きによって認識するものだったと作家は述べている。アルファベットやひらがななどはそうだが、文字は基本的に表音、なのである。一文字そのものは音を表すので、文字を見ればそれに応じた音が脳内で響く。ただし、それは健常な聴覚を持っている場合に限る。中村にはそれがなかったが故に、文字とは表音ではなく、表意でしかない。文字や言葉に音が付随しない世界に生きてきたのである。2012年に人工内耳を右耳に装着した途端、それまで知覚されなかった音だけではなく、同時に色彩や光、あるいは時間感覚にまで大きな影響を及ぼしたという。中村の作品には、文字が溢れている。しかし、それはセンテンスとして読めるものだけではなく、むしろ意味をなしているとは到底思えない文字の羅列が大半である。それをみて脳内に音が浮かばない状況は、健常な聴覚を持つものに中村の言語認識を強制的に追体験させる。色彩もまた、中村だけにしか知覚されない、音のない世界と音のある世界の双方を一つの絵画空間に併存させる、そのための色なのである。2009年東京藝術大学日本画科・平山郁夫奨学金授与、令和元年度(2019年度)文化庁新進芸術家海外研修生、2020年Mount Royal friendship(メリーランド・インステチュート・カレッジ・オブ・アート)賞与など。