NOBUYA HOKI
法貴信也
法貴信也
1966年京都府生まれ。1993年、京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了。線による表現を追求し、ドローイングおよび油彩の作品などを発表している。初期においては複数のキャンバスを組み合わせた絵画作品、色鉛筆によって紙上に描かれる天衣無縫な線描、ペン先の丸いドットや円を多用した具象的な素描などを経て、2005年ごろからは「二本画」と自らが呼ぶ二重線による独自の描画スタイルに至る。「二本画」は二本の筆を同時に持って描くために自作した特殊な絵筆(現在では既製品を二本握る)によって描かれる。「六本木クロッシング 2004」(森美術館, 東京)、2006年日豪交流年記念展「rapt! - 20 contemporary artists from Japan」(モナシュ大学美術館, メルボルン)、2010年「絵画の庭」(国立国際美術館, 大阪)など、00年代以後の日本現代美術を辿る上で重要な展覧会において紹介されている。豊田市美術館、国立国際美術館、高松市美術館(香川)、岡崎市美術博物館(愛知)などに作品が収蔵されている。母校である京都市立芸術大学美術科油画専攻の教授を務める。
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Title: untitled
Year: 2022
Medium: oil on canvas
Dimensions: 131.2 x 89.5 cm (51 5/8 x 35 1/4 in.) -
Title: Untitled
Year: 2022
Medium: oil on canvas
Dimensions: 91 x 65 cm (35 7/8 x 25 1/2 in.)
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untitled
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Year: 2022法貴は線を描く作家である。法貴独自の画法である紺と茶の二色に分割された二重線による絵画は「二本画」と呼ばれ、その発展が現在も続けられている。本作では線そのものの存在は幾分か穏やかだ。本作の線のあり方は、かつてのドローイング作品や「二本画」のティピカルな作品に見られるような鋭い線を引く運動性(draw)よりも、塗る行為性(paint)にやや比重が置かれているように見える。これまでの作品では、地としてのキャンバスや紙があり、その上に描かれた線がある、という簡潔な対比によって作品としての図像が現れていた。それと比較してみれば本作ではその地と図(線)の関係性を意図して僅差に収めているように見える。色彩を二極化する手法はこれまで通り、紺と茶を基本として、青とオレンジ、紫と黄色というような補色が追いかけ合うようにして重なっている。重なり隣り合う各色は筆の掠れや塗りの透けによってお互いの色を鈍らせたり補強し合い、風にゆらめく薄衣のような美しい色斑を画面全体に作り出している。その揺らぎの中に時折強く立ち現れた襞の稜線のようなもの、これが本作における線のあり方になっている。また本作は、その複雑な色と線の相関が繰り広げられる独立した系として絵画の外の世界(私たちのいる現実)から孤独に切り離されている。ここに置かれる線とはそれを成す人間： 右利きの画家・法貴信也の身体(腕)という制限の中で成される運動、及び、その身体とは不可分な意思によって成される行為という二重性を持つものであり、絵画とは法貴の身体が制作の瞬間においてただそれのみに向かって対峙する空間的質量の全てであるからだ。
Medium: oil on canvas
Dimensions: 131.2 x 89.5 cm (51 5/8 x 35 1/4 in.)
Acquired from Taka Ishii Gallery, 2023
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Untitled
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Year: 2022法貴は「二本画」という独自の画法で知られる。寒色と暖色の二本の絵筆を同時に振るうことで並行した二重線が生み出される。法貴は、初期作品では黒のドットで描くドローイングなどを制作していたが、その黒のドットを注視するうちに、本来そこには存在していないはずのバーントカーマインとインディゴの二色に分離したような錯覚を起こした経験から「二本画」の制作が始まったという。つまり、その二本の線はどちらかが主線というわけではなく、いずれも副線である。そこに見えていないものを主としているのであるから、画面に表れている線描はそれら自体が直接的に何らかを示すという役割を担っていない。抽象とは、個別の意味性や具象性を捨てていくことでより普遍性へと至るための行程を指すが、法貴の「二本画」とはそれを可視化しようとしたものだと言えるだろう。本作は、そうした法貴の姿勢を理解した上で鑑賞すべきである。青から赤茶色の色相の間で細やかに調整された色彩を、拭き取ったり染み込ませることによって画面全体の色調を見事にコントロールしている。暖色と寒色の両者がせめぎ合いながらも調和という点では一切の破綻は見られない。また、かつて二本の線によって明確に機能していた分離という現象は、速筆の掠れによって二重どころかより複雑に多層化している。加えて、滲むような色面と鋭い線という力の対比関係が鮮やかに示されている。本作はキャンバス作品であるが、「二本画」はドローイングで始まった技法であり、それを絵画的に発展させていった試行の成果がここに見られる。
Medium: oil on canvas
Dimensions: 91 x 65 cm (35 7/8 x 25 1/2 in.)
Acquired from Taka Ishii Gallery, 2022