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地霊 / Spirit Regions
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Year: 1990
Medium: acrylic, ash, wood, glass, iron
Dimensions: 32 x 62 x 62 cm (12 5/8 x 24 3/8 x 24 3/8 in.)
Acquired from New Auction, 2024
戸谷の代表的な作品シリーズとして「森」と並び称されることの多い「地霊」の一点。端正な六面体に製材された木を鉄のフレームとガラスの天板によって収めている。上から覗き込む視線を投げかけた時、そこに深い穴、あるいは傷が現れる。「森」では屹立する木材にチェーンソーで無数の傷を刻み込み、この無軌道な傷の連なりは作品の物体としての領域を超えて空間に向かってその鋭い力を拡散し、同時にその内奥へと同量の力を深く密集していく双方向性が見られる。これは空間における私たちの身体の所在を確かなものにする視線を鬱蒼とした森がその恐ろしいまでの量塊によって弾き返し、私たちの小さな存在をふうっと軽く揺るがしてしまう途方も無さに似る。「森」に代表される戸谷の彫刻における物性のあり方は本作を含む「地霊」においても継承されている。深く執拗なまでに切り刻まれた痕跡によって、私たちはこの深みの先に何が潜むのだろうかと空想する。重なり合う傷は無限の反響を繰り返すようにして私たちの目をいつまでも捕捉して離さない。身じろぎも許されぬほどの抗いがたい物性が傷によって空間に突き立てられる。そのあまりに生々しい凹凸を目で辿るうちに、やがて作品の内外の界面が混濁してくる。ここで私たちが目にしているのは形態上は作品の「内側」であるには違いないが、そこには「外側」に向かって切り放たれんとする恐ろしいばかりの力が膨張と圧縮のはざまで膠着しているからである。直方体の造形的な静謐さが、暴力的な力が我が身を食い破らんとする爆発寸前の緊張へと置換される。作品の切り屑を燃した灰によって染められたこの穴は、戸谷がかつて題材にしたポンペイの灰の下に燻る人々の生の果てを連想させる。戸谷の作品全般にわたって微かに漂う死のイメージが、ここにもある。また、戸谷が「ミニマルバロック」と称してのちに展開していく歪さと最小限の造形が同居した彫刻群の母型が本作にもかすかに見られるだろう。
